札幌高等裁判所 平成5年(ネ)209号 判決 1994年5月31日
平成五年(ネ)第一九〇号事件控訴人
国
右代表者法務大臣
中井洽
右指定代理人
都築政則
外四名
平成五年(ネ)第二〇九号事件控訴人
協同組合乙専門店会
右代表者代表理事
丙野次郎
平成五年(ネ)第二〇九号事件控訴人
丁山三郎
右両名訴訟代理人弁護士
荻原怜一
平成五年(ネ)第一九〇号事件、同年(ネ)第二〇九号事件被控訴人
甲野太郎
右訴訟代理人弁護士
伊藤誠一
同
藤本明
同
今瞭美
同
今重一
同
木村達也
同
宇都宮健児
同
清水洋
同
横山哲夫
同
山本政明
同
神山哲史
同
長谷川正浩
同
永尾廣久
同
加島宏
同
小松陽一郎
同
白波瀬文夫
同
木村哲也
同
山崎敏彦
同
山下誠
同
村上正己
同
尾川雅清
同
田中義信
同
大橋昭夫
同
河西龍太郎
同
安保嘉博
同
折田泰宏
同
石田正也
同
戸田隆俊
同
蔵元淳
同
加藤修
同
鈴木健治
同
田中清隆
同
矢田政弘
同
上野正紀
同
岡田栄治
同
大塚武一
同
椛島敏雅
同
石田明義
同
高崎暢
同
関口正雄
同
中田克己
同
山本行雄
同
中村宏
同
石口俊一
同
原垣内美陽
同
武井康年
同
山田延廣
同
坂本宏一
同
我妻正規
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 控訴人協同組合乙専門店会は、被控訴人に対し、七万五〇〇〇円及びこれに対する平成元年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 控訴人丁山三郎は、被控訴人に対し、四万円及びこれに対する平成元年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 控訴人国は、被控訴人に対し、四万円及びこれに対する平成元年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 被控訴人の控訴人らに対するその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、第一、二審を通じ、控訴人協同組合乙専門店会と被控訴人との間に生じたものはこれを一〇分し、その一を同控訴人の、その余を被控訴人の各負担とし、その余の控訴人らと被控訴人との間に生じたものはそれぞれこれを一五分し、その一をそれぞれ右控訴人らの、その余をそれぞれ被控訴人の各負担とする。
三 この判決は、被控訴人勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
一 当事者の求めた裁判
(平成五年(ネ)第一九〇号事件)
1 控訴人国
(一) 原判決中控訴人国敗訴部分を取り消す。
(二) 被控訴人の控訴人国に対する請求を棄却する。
(三) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
(一) 本件控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は控訴人国の負担とする。
(平成五年(ネ)第二〇九号事件)
1 控訴人協同組合乙専門店会、同丁山三郎
(一) 原判決中右控訴人両名敗訴部分を取り消す。
(二) 被控訴人の右控訴人両名に対する請求を棄却する。
(三) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
(一) 本件控訴をいずれも棄却する。
(二) 控訴費用は右控訴人両名の負担とする。
二 当事者の主張
次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決二枚目表九行目の「は、」の次に「組合員の取扱品の共同販売・共同購買・共同保管、」を、同裏二行目の「クレジットカード」の次に「(名称・日専連カード)」を、同七枚目表五行目の「残額」の前に「将来の利息を含む」をそれぞれ加え、同裏八行目の「原告や」から一〇行目末尾までを「本件公正証書を作成するに際し、被控訴人に対して公正証書を作成する旨の説明をせず、被控訴人との間に有効な代理人選任依頼契約もないのに、被控訴人の代理人を選任して本件公正証書を作成させた。」と改める。
2 同九枚目裏一〇行目の「被告丁山」の前及び同一一枚目裏七行目の「戊田は、」の次にそれぞれ「控訴人組合は、いわゆるクレジット業務を推進し、日専連カードを発行して、クレジットカードによるショッピングサービス(総合割賦購入あっせん業務)及び極めて高利のキャッシングサービス(貸金業務)を営んでいることは、北見地方に居住している者には公知の事実であり、」を、同一〇枚目表二行目末尾に「なお、控訴人丁山は、昭和六〇年ころ、準消費貸借契約公正証書を継続的に作成するための定型委任状につき控訴人組合から相談を受け、戊田と相談して右委任状の文言を定めた。」をそれぞれ加え、同裏五行目の「有する」を「負う」と改め、同一一枚目裏七行目末尾に「、昭和六〇年ころ、」を、同一二枚目表一〇行目の「受けたため、」の次に「控訴人組合を被告として、」をそれぞれ加え、末行の各「当庁」を「釧路地方裁判所」とそれぞれ改め、同裏三行目末尾に「なお、控訴人組合は、右請求異議事件について約一年間の審理を経た後の平成元年四月一八日、被控訴人の請求を認諾した。」を、同一三枚目表六行目の「慰謝料」の前に「苦痛を償うべき」をそれぞれ加える。
3 同一六枚目表二行目の次に行を改め「準消費貸借契約公正証書を作成するに当たり、原債務をどの程度まで証書に表示すべきかについては定説がなく、一般的にいえば、数口の債務を一口にまとめて消費貸借の目的とした場合には、一個の準消費貸借契約上の債務が成立するだけであるから、原債務を逐一表示する必要はなく、公正証書における請求権の表示としては、一定金額の記載のほか、請求権の発生原因である準消費貸借契約の同一性を他と識別可能な程度に特定しうる事項が記載されていれば足りるというべきであって、準消費貸借契約の同一性を特定するためには、契約の締結年月日、原債務の合計金額のほかに代表的な原債務の種類を表示すれば十分であり、この場合、原債務の種類の表示に誤りがあっても、それが重大かつ本質的な誤りでないときは、請求権の同一性は害されないものと解するのが相当である。したがって、本件公正証書の請求権の表示が同一性を欠くとまではいえない。」を加え、同裏五行目の「せしむべき」を「させる」と改める。
4 同一八枚目表一行目の次に行を改め「また、法律解釈につき異なる見解が対立し、実務上の取扱いも分かれていて、そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に、公務員がその一方の見解を正当と解しこれに立脚して公務を執行したときは、のちにその執行が違法と判断されたからといって、ただちに公務員に過失があったものとすることは相当ではないとされているところ、戊田が本件公正証書を作成した当時はもとより、現在においてさえ、割賦販売法三〇条の三の規制が準消費貸借契約にも適用されるかについては議論がされており、肯定説、否定説、いずれの見解が相当かについて確立した判例があったとは解されないから、否定説に従った戊田に過失はなかったというべきである。」を加え、一〇行目の「(1)」を削り、同一九枚目表七行目の「ある」を「あり、また、割賦販売法三〇条の三の規制が準消費貸借契約にも適用されるかについて、否定説に従った戊田に過失のなかったことは、前記6(三)(原判決引用)で述べたとおりである」と改める。
5 同一九枚目表八行目の次に行を改め次のとおり加える。
「仮に、被控訴人に本件公正証書作成を嘱託する意思がなかったとすれば、被控訴人主張の請求異議訴訟については、被控訴人に公正証書作成嘱託の意思がなかったという全部無効事由についての審理、判断を行えば、割賦販売法違反や利息制限法違反の一部無効事由についての審理、判断を行うまでもなく、右訴訟は全部認容されて終了したはずであるから、被控訴人が損害として主張する訴訟費用・弁護士費用のうち、割賦販売法違反や利息制限法違反の一部無効事由についての審理、判断に要した部分は存在しなかったというべきである。さらに、もともと訴訟費用は、当該訴訟における訴訟費用負担の裁判ないし訴訟費用額確定決定に基づいて償還されるべきものであり、別訴で損害賠償請求をすることはできないものとされている。したがって、仮に、戊田に割賦販売法違反や利息制限法違反を看過した点に過失があったとしても、その過失と右訴訟に要した訴訟費用・弁護士費用相当額の損害との間には、因果関係がないというべきである。」
6 同四三枚目表二行目及び同四四枚目表一行目の各「分割回数」の次に「(月賦)」をそれぞれ加える。
三 証拠関係
原審及び当審記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一当裁判所の認定及び判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決二〇枚目裏四行目の「乙」の前に「甲第三号証、」を加え、七行目の括弧書内部分を「乙ロ第三号証、原審における被控訴人本人尋問の結果。被控訴人と控訴人組合及び同丁山との間では争いがない。」と、末行の「第一、四、五」を「第一、二、四、五、一〇」とそれぞれ改め、同二一枚目表五行目の「うかがわれるが、」の次に「右申込書の連帯保証人欄の被控訴人名下の印影が、右(二)の契約書における印影と異なり、申込人である一郎の印影と同一と思われること(乙ロ第三、五号証)及び乙ロ第一、二号証の各記載内容に照らすと、」を加え、同二二枚目表二行目の「金額等が既に記載された本件」を「控訴人丁山を一郎、庚谷及び被控訴人の各代理人として請求原因2(原判決引用)の内容の公正証書作成を委嘱する旨記載された」と改め、三行目の「確認書」の前に「右債務額及び支払方法の記載された」を、八行目の「花子は、」の次に「右担当者から、」をそれぞれ加え、九行目の「言われたと証言しており」を「言われ、各連帯保証人の署名捺印を得るため右(原判決引用)記載のある委任状を預かり、その内容を確認する機会を与えられたことが認められるから」と、一〇行目の「認められる」を「推認することができる」とそれぞれ改める。
2 同二二枚目裏四行目の「した上、」の次に「花子から」を、一〇行目の「乙ロ第一」の次に「、二」を、同二三枚目裏七行目の「本件公正証書」の前に「債権を有するとして、」をそれぞれ加え、八行目の「六、七、一〇号証の一、二、一一」を「一三」と、末行の「事務員」を「事務長」と、同二四枚目裏六行目の「被告組合による立替金債権か又は譲受債権」を「昭和六二年三月二四日現在における控訴人組合の立替金債権ないし譲受債権の総額」とそれぞれ改め、八行目末尾に「しかし、原債務のうち日専連カード利用による貸金債務及び遅延損害金は、右に表示された債務との間に同一性を欠くことは明らかである。」を加え、九行目の「利息制限法」から同行末尾までを「債権額に関して、前記1(八)(原判決引用)のとおり、既払分について利息制限法違反部分の元本充当計算を行わず、また、将来分について同法に違反する重利を付した部分は、違法であり効力を生じない。」と、一〇行目の「割賦販売法に関しては」を「さらに債権額に関して、控訴人組合は商法上の商人には当たらないものの、付随的に営む割賦購入あっせん業務の面では商人性を有するから、割賦販売法三〇条の三により、」とそれぞれ改め、末行の「わたり」の次に「かつ」を加え、同二五枚目表一行目の括弧書部分を削る。
3 同二五枚目表八行目冒頭から同裏五行目末尾までを次のとおり改める。
「1 前示(原判決引用)のとおり、本件公正証書の被控訴人に関する部分は控訴人丁山が被控訴人の代理人として公証人に嘱託して作成されたものであるところ、被控訴人名義の控訴人丁山を代理人として本件公正証書の作成を委嘱する旨の委任状は偽造によるものであるから、右作成嘱託は無効というべきであるが、控訴人組合担当者壬川は、あらかじめ右委任事項を記載した委任状に、花子を通じ興部町に居住する同人の舅である被控訴人の署名捺印を求めるに当たり、花子に対し、被控訴人本人から右委任状に作成名義人として署名捺印をしてもらった上、被控訴人の印鑑登録証明書を添付してもらうよう指示していたところ、花子からそれらの提出があり、被控訴人は既にマイカーローン分についても連帯保証しており、当時控訴人組合において右委任状が偽造されたことを疑うべき相当の事情があったことを認めるに足りる証拠もないことからすれば、控訴人組合が右委任状を有効なものと信じ、右委任事項に従い控訴人丁山を被控訴人の代理人として本件公正証書の作成嘱託をし、これに基づき強制執行をしたことに過失があったとはいえない。また、本件公正証書の表示された債権と現実の債権との同一性に問題があるとしても、そのこと自体による不利益は債権者である控訴人組合に帰するものであるから、被控訴人に対する関係で不法行為が成立する余地はない。」
4 同二五枚目裏七行目の「である」の次に「上、昭和六二年三月には弁護士今瞭美から請求原因6(二)(2)(原判決引用)のとおり警告を受けていた(当事者間に争いがない。)」を加え、同行の「いわばシステムとして」を、九行目の「今瞭美弁護士」から一〇行目の「までもなく、」までをそれぞれ削り、同二六枚目表四行目の「八矢」の次に「敏文(以下『八矢』という。)」を、同裏七行目の「考え、」の次に「右各当事者になんらの確認もせず、」をそれぞれ加え、同二七枚目表三行目の「一時期」を「昭和五〇年ころまでの間」と、四行目の「されていた」を「されたことがあった」とそれぞれ改め、七行目の「により、」の次に「顧客が支払を遅滞した場合に、」を、九行目の「に対し、」の次に「そのため控訴人組合に常備して使用する」を、一〇行目の「被告丁山は、」の次に「控訴人組合が持参した原稿を手に入れ、自らを債務者と連帯保証人の代理人とする」を、同裏一行目の「それ以後、」の次に「顧客が支払を遅滞し公正証書を作成すべきものと判断したときには、割賦購入あっせん、貸金のいずれかを問わず、右の経緯で定型用紙として印刷し事務所に常備する」を、二行目の「使用して」の次に「公正証書の作成を嘱託して」を、三行目の「乙」の前に「甲第六、一一号証、」を、六行目の「作成嘱託を」の次に「戊田に対し」を、同二八枚目裏三行目の「記載上は」の次に「執行認諾条項を含め」をそれぞれ加える。
5 同二八枚目裏八行目の「しかしながら」から九行目の「知っており」までを「控訴人丁山は、その職務上控訴人組合の業務内容を認識していたところ、右1(五)の事実(原判決引用)によれば、控訴人丁山は、昭和六〇年ころ控訴人組合の依頼により、戊田と検討した上本件公正証書作成嘱託の際にも使用された委任状の定型用紙の内容を定めたが、その前後の事情からすると、控訴人丁山は、控訴人組合から右依頼を受けた時点で、控訴人組合から作成依頼された委任状の定型用紙は、控訴人組合が支払を遅滞した顧客との間に準消費貸借契約を締結し、それに基づく約定について、控訴人丁山及びその従業員が控訴人組合及びその顧客のそれぞれを代理して戊田に債務名義となる公正証書の作成を嘱託するためのものであり、控訴人組合は右定型用紙の委任状を印刷して今後継続的に控訴人丁山に公正証書の作成嘱託を依頼する意向であることを認識していたものと推認することができる。そして、被控訴人組合の準消費貸借契約の目的となる『債権者の加盟店から買受けた衣類等の買掛代金』で表示される原債権は、多数の顧客に対する割賦購入あっせんにより生じた立替金債権であるが、従前その遅滞に対し高率の損害金支払約定がなされていた弊害を排除するために、その暫く前に割賦販売法が改正されたのであり」、同二九枚目表四行目の「ことは」から五行目の「以上」までを「ことは否定できないが、前記(原判決引用)のように、控訴人丁山は、控訴人組合から依頼を受けて司法書士の立場から定型用紙の内容の確定に関与し、以後これを利用して多量の公正証書の作成嘱託業務を処理していたのであるから、このような場合には、その処理に当たっての注意義務もより高度のものが要求されるというべきであり」とそれぞれ改める。
6 同二九枚目表八行目冒頭から同三〇枚目表二行目末尾までを次のとおり改める。「(四) しかし、利息制限法違反の公正証書作成を嘱託した過失についてはこれを認めることはできない。
すなわち、前記定型委任状用紙及びこれに基づく公正証書には、準消費貸借の原債務としては『債権者の加盟店から買受けた衣類等の買掛代金』と印刷されており、貸金債権がこれに含まれないことは文言上明らかであるところ、控訴人組合が前記定型委任状の作成を控訴人丁山に依頼した際の具体的状況は証拠上必ずしも詳らかでなく、原審証人己原の証言によっても、控訴人組合ではかねて顧客に債務の遅滞があったときは債務承認弁済契約公正証書を作成していたが、他地の専門店会やその連合体で用いられていた書式を取り寄せたりして、控訴人組合の債権処理に合ったものを作成するということで控訴人丁山に相談したという程度の事実しか認められないことからして、未だ、控訴人組合が同組合の行っている貸金業務によって生じた債権も原債務に入れるということを明示して右依頼を行ったとまで認めることは、右の文言からして困難である。ただ、甲第六、第七号証、弁論の全趣旨によれば、控訴人組合は、定型委任状が作成された後において、本件公正証書の他にも、この委任状を用いて訴外長沼浩四との間で貸金債権について準消費貸借契約公正証書を作成していることが認められることからすると、控訴人組合としては、右依頼に際して貸金債務についても準消費貸借の目的とする意図であったことは明らかであるが、同控訴人が、この意図を明確に説明しているのに、あるいは、説明がなくても控訴人丁山が当然のこととしてこれを認識していたにもかかわらず、同控訴人があえて控訴人組合の意図を覆い隠すような『買受けた衣類等の買掛代金』という明らかに貸金債権を含まない虚偽の文言を用いたとまでは認めるべき証拠はないところである。控訴人丁山は、従前から職務上控訴人組合が貸金業務を行っていることを知っていたことは前記(原判決引用)のとおりであるが、依頼の状況が右のようなものであったと認めざるをえない以上、同控訴人に、原債務には控訴人組合の行っている貸金業務から生じた債権があるのではないかとか、その中に利息制限法に違反する利息が含まれてはいないかなどと確認する義務もないと言わざるをえないところである。」
7 同三〇枚目表三行目の「右」の次に「(三)」を加え、九行目の「所属」を「執務」と改め、同裏五行目の「し、」の次に「各代理人及び当事者になんらの確認もせず、」を加え、同三一枚目表二行目の「被告組合」から「検討し、」までを削り、五行目末尾に「本件公正証書も右用紙を使用して作成されたものである。」を加え、六行目の「甲第一三号証、」を削り、末行の「いたのであり」から同裏二行目末尾までを「おり、日専連カード会員入会申込書(同号証)裏面の日専連カード会員規約には、さらに具体的にそれらの契約の性質や利息ないし手数料、遅延損害金の年率等が記載されていた。」と改め、同三二枚目表三行目の「解する」の次に「(公証人法二六条、同法施行規則一三条一項)」を加え、四行目冒頭から一〇行目末尾までを次のとおり改める。
「右のとおり公証人は公証人法及び同法施行規則において、公正証書作成にあたり作成嘱託が本人の意思に基づくものか、原因となる法律行為が有効であるかなど、一定の事項、範囲について審査する義務を負っているのであるが、積極的な調査権限についての定めを置いていないこれらの規定の上からは、この審査は基本的には形式的審査の限度に止まるべきものと解される。これは、簡易迅速に既判力を伴わない債務名義を作成するという要請と同時に嘱託者自身が承諾している事項については、一般的に違法無効な瑕疵は少ないと考えられるし、万一違法無効な公正証書が作成されても、その効力を排除する法的手続きが存することなどの実質的理由からも裏付けられるところである。しかし、形式的審査とはいえ、聴取した陳述をこの陳述それ自体や嘱託者から提出された関係書類のみから審査すれば足りるというものではなく、前記(原判決引用)のとおり、公証人が当該嘱託に先立つ時点において職務上知った事実、事例によってはこの過程において知るべき義務のあった事実等もこの審査における資料とすべき場合もあり、このように解することが、前記公証人法及び同法施行規則が各規定するところを超える義務を公証人に課することになるものと解することはできない。」
8 同三二枚目裏七行目冒頭から同三三枚目表六行目末尾までを次のとおり改める。
「(三) しかしながら、原審における証人戊田の証言によれば、戊田は、控訴人組合が割賦購入あっせんを業としていることを知っていたことが認められるところ、前記五の1及び六の1の事実(原判決引用)によれば、戊田は、昭和六〇年ころ控訴人丁山から相談を受け、同控訴人と検討した上、本件公正証書作成嘱託の際にも使用された委任状の定型用紙の内容を定めたが、その前後の事情からすると、戊田は、控訴人丁山から右相談を受けた時点で、右委任状の定型用紙は、控訴人組合が支払を遅滞した顧客との間に準消費貸借契約を締結し、それに基づく約定について、控訴人丁山及びその従業員が控訴人組合及びその顧客のそれぞれを代理して戊田に債務名義となる公正証書の作成を嘱託するためのものであり、右委任状の形式が確定し次第、右定型用紙の委任状を印刷し、これを使用して今後継続的に控訴人丁山に公正証書の作成嘱託を依頼し、同控訴人は戊田にその作成を依頼する意向であることを認識していたものと推認することができる。ところで、準消費貸借契約公正証書は、準消費貸借の目的となった債権が他の請求と識別できる程度に具体的に特定して表示されることが必要であるから、戊田としては、右委任状の定型用紙の内容を定めるに当たり、控訴人組合担当者から前記入会案内書や入会申込書等の資料を提出させるなどして控訴人組合の顧客との取引の形態を把握する義務があり(なお、厳密にはこの義務自体は、個別の公正証書作成の際に求められる審査義務の問題ではなく、公証人が公正証書作成という固有の事務を遂行するにつき、これに関連して行う周辺業務における注意義務である。)、かつ、そのこと自体極めて容易なことであったところ、戊田が右義務を履行していたとすれば、その過程で控訴人が割賦購入あっせん業務の内容をより明確に把握することができ、本件委任状に記載された『債権者の加盟店から買受けた衣類等の買掛代金』に割賦販売法三〇条の三の規制を受ける立替金が含まれているかを確認することにより、割賦販売法に違反する公正証書が作成されることを避けることができたものというべく、この点において過失を免れない。
なお、戊田は、本件公正証書の作成当時、準消費貸借契約が結ばれれば年六パーセントの規制は及ばなくなると考えた旨供述する。しかしながら、強行法規違反により無効な債務について準消費貸借が成立しないことは、実務上はほぼ確定的な解釈ないし取扱いであり、右供述のような考え方が相当の根拠をもって主張されていたと認めるに足りる的確な証拠はない。」
9 同三三枚目表七行目冒頭から同裏末行末尾までを次のとおり改める。
「(四) 次に、利息制限法違反の公正証書作成の点であるが、前記(原判決引用)のとおり、戊田は控訴人組合の依頼による定型委任状の作成につき控訴人丁山とともに相談にあずかって若干の意見も述べ、更に新たに作成された定型委任状に合わせた公正証書用紙を印刷したのであるが、控訴人組合がこの依頼に際し、同組合の行っている貸金業務によって生じた債権も原債務に入れるということを明示して右依頼を行ったとまで認められないことは、控訴人丁山の責任判断の項で判示したとおりである。なお、原審における証人戊田の証言によると、戊田は控訴人組合が貸金業務を行っていたことは知らなかったというのであり、また右証言及び前掲控訴人丁山本人尋問の結果によれば、戊田は右依頼の際に控訴人組合の入会案内書や入会申込書を見たことは認められないところ、戊田は右委任状の定型用紙の内容を定めるに当たり、控訴人組合担当者から前記入会案内書や入会申込書等の資料を提出させる等して控訴人組合の顧客との取引の形態を把握する義務のあったことは前示のとおりであるが、控訴人組合からの定型委任状作成依頼の経緯が前記のようなものであったとしか認めがたい以上、職務上の経験も審査の資料になる場合があるとはいえ、前記説示の公証人の審査権限に照らし、戊田において、この買掛代金の中に貸金債権が含まれていないか否かを積極的に控訴人組合に確認する義務はないと解すべきである。」
10 同三四枚目表一行目の「右過失行為」を「右(三)の過失」と、六行目の「当庁」を「釧路地方裁判所」と、九行目の「原告は」を「被控訴人と一郎及び庚谷の三名は」と、一〇行目の「した」を「したが、被控訴人の負担分はその三分の一の八万三三三三円であると認められる」と、同三五枚目表七行目の「下旬」を「中旬」と、同裏一〇行目から末行にかけての「弁護士費用等のうち五万円を損害と認めるのが相当である。」を「弁護士に対する着手金のうち四万五〇〇〇円を右不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である(被控訴人は、右訴訟において、第一次的には公正証書作成嘱託の意思がなかったと全部無効事由を主張し、右訴訟は控訴人組合の請求認諾により終了しているが(前段は弁論の全趣旨により認められ、後段は当事者間に争いがない。)、異議事由は同時主張を要する上、前示のとおり(原判決引用)右事件について全部無効事由の認められることが明らかに予測できたとはいえないことを考慮すると、着手金について右限度での因果関係を認めるのが相当である。なお、右訴訟の貼用印紙代は、民事訴訟法一〇四条により償還請求することができるから、これとは別に損害賠償として請求することはできない)。」と、同三六枚目表八行目の「原告が」から同裏三行目末尾までを「右両名は、控訴人組合との共同不法行為により、被控訴人に前記弁護士に対する着手金のうち三万円相当の損害を被らせ(なお、前記貼用印紙代については、控訴人組合からの回収が不能とは認められないから、別途損害賠償請求し得る余地はない。)、かつ、過大な債権による差押えにより慰謝料額として一万円相当の精神的苦痛を被らせたことが認められる。」と、四行目の「五万円」を「四万円」と、七行目の「八万円」を「七万五〇〇〇円」と、八行目の各「五万円」を「四万円」とそれぞれ改める。
二よって、右とその趣旨を一部異にする原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官宮本増 裁判官河合治夫 裁判官髙野伸は、転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官宮本増)